(写真は、お菓子の掛紙と添えられていたお飾りです)
東京青山の骨董通りの真ん中あたりにある、柳の木が目印の、風情ある佇まいの老舗和菓子店、菊家さん。
昭和10年、青山通りで創業以来、昭和25年に現在地に移り今日に至るまで、暖簾分けなど一切せず
一子相伝のその技と味を守り続けていらっしゃいます。
宮家をはじめ茶道御家元、また文人墨客の諸先生方の御用達の菓匠としてもその名は知られていて、
作家・向田邦子氏お気に入りの夏の“水羊羹”。
通年の干菓子『利休ふやき』は、おもたせの定番です。
若くして先代を亡くされたご主人は、ご贔屓の茶道の先生達に支えられて、
独学で今日のスタイルを確立されたそうです。
茶会の催される季節に合わせ、オリジナルの新作を創られたり、
懐紙を湿らさない製法を取り入れるなどの心得は、頂く側に立って考えるという茶心をも感じます。
そのような配慮が、ご贔屓にされる所以でもあるのでしょう。
個性的な色の重ねや、愉しく愛らしいモチーフ意匠の“練切”は、季節が存分に表現されています。
和にこだわらずに意匠化された上生菓子は、バレンタインやクリスマスにちなんだデザインの物など様々で、
その種類も豊富で迷ってしまうほどです。
「綺麗でも、美味しくなくては意味がない」 というご主人の手技が、
その繊細な細工で表現されたお菓子に感じられます。
そんな菊家さんの、雛祭りのお菓子は、その心意気を裏切らないものでした。
目にも愉しく、美しく、そして、お菓子を頂いた後のお茶が、とても美味しく感じました。
“雛祭りセット”は、“お雛様” “お内裏様” “たちばな” “雪洞” “菱餅”が特別にセットされた、季節の限定品。
一つひとつに工夫が施され、一つひとつのお味を堪能できました。
“お雛様”…外側は、アンズかミカンをを混ぜ込んだ白餡です。内側は小豆色のこし餡です。
“お内裏様”…お雛様との餡使いは同じですが、肉桂の香りがしました。殿方の味付けにぴったりです。
“菱餅”…淡雪羹でしょうか?ふわふわした食感です。ミルクが入っているようにも感じました。
“たちばな” …大胆な色使い。
雛壇に置かれる右近の橘は、日本書紀や古事記にも登場する、菓子の始まりとされているそうで、
兵庫では、菓祖としてまつられている神社もあるそうです。
というようなこともあって、このセットの中の花として、モチーフにチョイスされたのでしょうか?
“雪洞”… せっとうと書きますが、読みはぼんぼり。
ぼんぼりは、ぼんやりしてはっきりしない様のことですが、
「ぼんぼりと灯りが見える道具」のこちらも雛飾りには欠かせないもの。
優美な意匠には、左近の桜もついていて、はんなりと柔らかなたたずまい。
少し黄色身がかった白餡でした。手亡豆でしょうか?
取り扱うお菓子は、これだけではないというのに、手間をかけたお仕事、
その味の奥行きの深さに、目を見張り、感動いたしました。
“お雛様” “菱餅” “お内裏様”
“たちばな” “雪洞”
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